喪失と追悼:Prince『HITnRUN phase two』
Prince突然の死
日本時間4/22午前3時頃、Princeの突然の死が世界中を駆け巡りました。
朝起きて知った、という方も多いとおもいます。
僕はというとちょうど寝ようという頃で、突然の訃報に目を疑い、ショックで眠気もどこかへ行ってしまい茫然としました。絶句、というのが正しいかもしれません。
その死を受け止められず、プリンスを聴くという気持ちにもなれずただ漂っている、そんな時間でした。
世界中のミュージシャンをはじめ、著名な方たちやファンが追悼のメッセージを寄せ、その数はおびただしいものでした。SNSのタイムラインはプリンス一色。
先日プリンスが救急搬送されたというニュースを目にして、その時「やばいんじゃないか」と一瞬不安がよぎりましたが、インフルエンザということだったのでまあ大丈夫だろうなと胸をほっとなでおろし日々を過ごしていました。
だから逆にというのもあるし、57歳という若さもあって、驚きは大きかったです。
こんなにもショックなのかと自分で自分にびっくりもしました。
Prince信者かというとそういうわけではない、というのは自覚しているところでもあったので。
ただ、音楽にふれて生きてきた中で、節目節目というか、人との結びつきを考える時にプリンスがそこにいた、ということは何度もありました。
一夜明けて、一日を無為に過ごし、今ようやく何か聴こうと思い取り出したのはPrinceの最新作であり遺作となってしまった『HITnRUN phase two』でした。
これは以前にもこのブログで取り上げたことがあります。
Princeの作品について
Princeのファンはここ日本でもたくさんいて、思い入れのある曲、アルバムというのがそれぞれにあることと思います。
デビュー作の『For You』、自身の名前を冠した2作目『Prince』、その存在を世界中に知らしめ大ヒットとなった『1999』やアカデミー賞を受賞した自伝映画のサントラ『Purple Rain』、衝撃的なジャケット、アルバム構成(トラック分けされておらず通しで聴くしかない)の『Lovesexy』や2000年代に入っていいわゆるジャズファンやファンクファンにも衝撃を与えた『The Rainbow Children』や『Musicology』など把握できるオリジナル・アルバムだけでも51枚もの作品をリリースしています。
僕自身Princeをリアルタイムに聴き始めたのは、ジャズを始めた時期と重なった『The Rainbow Children』あたりからです。他の人と比べると相当に遅い、です。
その頃からでも20作近くリリースしているんですから、その創作意欲というのはものすごいなとあらためて感じます。
昔からのファンからすると、近年のPrinceは以前と比べてあまり評価できないというところももしかしたらあるかもしれませんし、特に異論を挟むこともないです。僕自身、遅いので。もちろん昔から今に至るまですべてのPrinceが好きな方もいらっしゃると思います。
僕が思ったのは、やはり限りなく今に近いPrinceを今聴きたい、ということでした。
『HITnRUN phase two』
そしてこの『HITnRUN phase two』。
これは2015年アメリカのメリーランド州ボルティモアでの痛ましい事件に端を発した「BALTIMORE」から始まります。
いまだ存在する黒人への人種差別。この事件は大規模なデモへと発展し、日本でも大きなニュースとなりました。
戦争がないということ、それは平和ってことじゃない。
僕らはもう泣き疲れた、人が死んでいくのは耐えられない。
銃を捨てよう。
今こそ、愛そう。聴こう、ギターを。
正義がないのなら、平和なんてない。
プリンスの痛切な叫び、訴えが心に深く刺さります。
そして音楽家としてのすごさを感じるのは、その日々の情景や沈痛な空気、悲壮感やどこかに漂う「まだこんなことを繰り返していくのか」という諦めにも似た感情が、コードワークやアレンジに見事に落とし込まれていて、それが言葉と一体になって迫ってきます。
こういった表現ができるミュージシャンというのは、本当に少ない。
そしてここからプリンスは黒人としての生、言葉、音楽、そして愛をこのアルバムで描いていきます。
2曲目「ROCKNROLL LOVEAFFAIR」でそこまでの沈痛な空気ががらっと変わり、音楽に身を委ねよう、そんな空気が現れます。
とにかく2と4をとにかく入れ込むというビジュアルもさることながら、歌詞の韻の踏み方も小気味好くユニークな「2.Y.2.D」。
思わず聴き惚れてしまうムード満載なイントロから始まるR&B、Soulな「LOOK AT ME,LOOK AT U」。YouをUに、toを2、forを4というのはもちろん、WhyをYに、IをEyeにととにかく置き換えまくるのが歌詞を読む時のビジュアルとしてもおもしろい。アメリカって今みんなそうなんですかね?海外のアーティストの場合ライナーに歌詞を入れない人も多いですが、プリンスがそれだけ歌詞の表現を大事にしているのか、というのがよくわかります。
「STARE」でもプリンスは数字を使ってたくさん遊びます。ファンクの1.2.3をSTAREに見立てるように。秀逸。
「XTRALOVEABLE」。これはもうタイトルでやられちゃいますね。エクストラですよ、エクストラ。EYE'D REALLY LOVE 2 C U DANCE。ダンサブルでハッピーな1曲。
体の芯まで音楽を楽しむ。
そして「GROOVY POTENTIAL」。このアルバムで「BALTIMORE」の他に1曲なにか選ぶとするなら(色々迷っちゃいますが)この曲です。
WE GOT THE GROOVY POTENTIAL、グルーヴの可能性ってもんを見せてやるよと言わんばかりに、変幻自在にうねり、とてつもないグルーヴに到達する。
黒人音楽に魅せられたミュージシャンには常にグルーヴというのが付き纏うけれど、こういうもんです、はいどうぞ!とベストな料理が出てきたという感じです。
ぐうの音も出ない。文句なしに狂えます。
Soul Loveな「WHEN SHE COMES」、底知れない歪のエネルギー「SCREWDRIVER」、音楽の神様とユニークに会話する、ミュージシャンに勇気をくれるような「BLACK MUSE」、そして個人的にはプリンスの宗教色を感じる「REVELATION」、最後は「あなたの腕の中はビッグ・シティ」となんだか最高な気分にさせられてしまう「BIG CITY」で終わります。
かつてのPrinceが世の中に与えたエポックメイキングなサウンド、というのは正直ありません。
ですが、社会や生をひっくるめた黒人音楽とはなんなのか、というのをこの作品でPrinceから学ぶことができますし、それにはこのアルバムがベストのひとつなんじゃないかなと思います。
最初このアルバムは配信のみでリリースされていて、それをずっと聴いていたんですが、CDがリリースされて聴いてみると音の違いにびっくりしました。それほど大きくは変わらない印象の音楽もありますが、この作品は全然違います。
最近はApple Musicで音楽を聴くことも多くて、ここまで違うとあらためてちゃんとCD買おうと思わされました。
配信でもいいですが、ぜひCDで聴くことをおすすめします。
悲しみから喜びへ、生きている限り変えていかなきゃいけないんだな。
聴いているうちに顔が前へと向いている、音楽の喜びと共に。
そう思うアルバムです。
一夜明けて
Princeの死のショックをPrinceが変えてくれた。そんな夜です。
折しも、Piano&a Microphoneというピアノと歌のツアーの真っ最中でした。
Princeと言えばやはりギターのイメージが強くあるので、その形でいったいどんな音楽を見せてくれるのだろう、そしてそのあと生まれる作品はどんなものだろうと楽しみにしていました。果たしてphase threeがあったのか、とかそういうことも考えてしまいます。
PrinceのCDを全て集めるのは至難の技ですが(これだけのビッグ・アーティストでこれだけ手に入らないというのはすごい)、これからも聴いていない作品を聴いていこうと思います。
- アーティスト: John L. Nelson,Michel Colombier,Prince
- 出版社/メーカー: Warner Bros / Wea
- 発売日: 1994/06/17
- メディア: CD
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