Franck Avitabile『Right Time』を聴く
もう何度聴いただろうか。
自分自身の道標でもあり輝かしい憧れでもある。
CDがすり切れ、ケースもボロボロになり今このCDを3枚所有している。
そんな特別な作品なので自身の誕生日ということもあり、普段のレビューと趣が少し異なってくるが、書いていきたい。
Franck Avitabile(フランク・アヴィタビレ)のデビュー2作目『Right Time』を今回はとりあげる。制作は2000年。ちょうどミレニアムの時の作品だ。
私自身のアヴィタビレとの出会いはデビュー盤の『In Tradition』だが、そのころは「いいピアニストがいるんだな、しかもMichel Petrucciani(ミシェル・ペトルチアーニ)がプロデュースで。」といったもので、なんとなく聴いて気に入ってはいたものの、のめりこむほどではなかった。
それがペトルチアーニが1999年に亡くなり、大きな存在を失ったなか制作されたこの『Right Time』。想像していたのとは裏腹にアヴィタビレの妻に捧げる「Miss Laurence」でアルバムは始まる。これがまるで光煌めく朝のような響きなのだ。
希望に満ちた光。そして愛おしい。
これはもうペトルチアーニ・プロデュースの作品じゃない、アヴィタビレが一人立ちをした出発の船なのだ。そう感じさせる。そして続く「In Your Own Sweet Way」。そのタイトルの通り、その道は進んでいく。
「Facin' Up」。そう、これだ。この音楽だ。僕が求めていたもの。失った悲しみ。抱える切なさ。でもそれは希望に変わる。憂いを帯びたイントロから、メロディーが始まる瞬間の希望への煌めき。前を向いて生きていくんだ。やさしく、美しく。
アドリブパートでただただひたすらに美しいメロディが紡がれていく、Louis Petrucciani(ルイ・ペトルチアーニ)のベースと共に。情熱が高ぶっていく、どこまでもどこまでも、Roberto Gatto(ロベルト・ガット)のドラムと共に。切なく胸を打つ悲しみを、変えよう、明日の光に。そのエネルギーに。理性などどこかへいってしまってもいい、その情景に生きるんだ。かけがえのない景色に、愛に。
どこか残した切なさを胸に秘めて、それはまた次の美しい日々につながっていくのだ。
僕はこの曲が、ペトルチアーニが亡くなって2日後に生まれでてきたこの曲が大好きだ。ずっと、ずっと、このピアノを追いかけていこう。そう心に決めた。「Facin' Up」。
「Right Time」それはゆるぎない光のエネルギーだ。突き進め突き進め、その道を。曲がりくねった道もその先につながっているさ、行き着いたら、また進め。どこまでもどこまでも。光が躍動する。Niels-Henning Orsted-Pedersen(ニールス・ヘニング・オルステッド・ペデルセン)の大地を踏みならすベース。さあ、助走を始めるんだ。いつでもジャンプできる。さあ、飛べ。「Right Time」。
静かに、清廉に、愛おしいエヴァン。「Song For Evan」そうそれは彼のための曲。
失われた命があるなら、また新しい命が芽吹く。その頼りない小さな生命を慈しむのだ。静かに、そして清らかに。ここにもまた粒子のような小さな光が降り注ぐ。つらなっていく。
愛するエヴァンよ、これは君のための曲だ。
Dizzy Gillespie(ディジー・ガレスピー)による「Con Alma」これもアヴィタビレの幻想的な音、トーンに染まっていく。
愛する人と人生を共にする、そんな前奏曲からはじまる「Cherokee」。およそ通常演奏されるテンポではなくひどくゆっくりとした、確かに1歩ずつ歩んでいく、前半はそういった流れだ。ベースが汽笛をならす。共に歩もうと。足取りが少しずつ速くなっていく。駆け出そう、二人の新しい日々へ。まばゆい未来へ。愛の囁きを繰り返して、二人はより深く深く結ばれていく。さあ鐘が鳴る!高々と響く!
これはたったいま生まれた結婚のための行進曲だ。未知なるドアを開けよう。
「Little Valse」それは小さなワルツ。内気な女の子の夢想。ゆらめきの中で彼女は何を見つけるのだろう。それは美しい世界かい?それてもうっすらと感じる不安かい?
夢想のワルツ。
最後は、星のブルース。「Blues From The Stars」。陽気に、あの人のように陽気に。
楽しく笑い合えばいい、あの時のように。まだ続いていくんだよ、道は。終わらないさ、まだまだね。
切なさや悲しみを超えて、なんと光ある作品だろう。
今日はきっと全部うまくいく。絶対ね。
だから、生きよう。共に。
愛と感謝を込めて。
Franck Avitabile『Right Time』
1. Miss Laurence
2. In your own sweet way
3. Facin' Up
4. Right Time !
5. Song for Évan
6. Con Alma
7. Cherokee
8. Little Valse
9. Blues from the Stars
Franck Avitabileのサイトはこちら。
他にもFranck Avitabileのディスクレビューを書いています。
どの作品も素晴らしいので、ぜひ読んでみてください。